【Event Report】ゲスト:能條桃子さん|選挙後こそ考えたい政治のこと──わたしたちのアクション会議 

みなさんこんにちは。
Creative Studio kokoが運営するメディア「kokonome(ここのめ)」です。

私たちは「つくる」「届ける」に関わる人々と、表現や企画制作、発信の領域でよりよい社会や現場づくりの道筋を模索し、
エンパワーしあえる場づくりをおこなっています。
テーマは、「私たちが今、話してみたいこと」。クリエイティブ制作の過程や働き方、社会との関わり方について、まずは制作に携わる私たち自身が気になるトピックを持ち寄り、知識や思考に触れることで新しい視点につなげていくことを目指しています。

今回は、7月20日に行われた参院選の結果を踏まえ、これからの私たちに何ができるのか、皆さんとともに考えたい?2025年8月1日に「選挙後こそ考えたい政治のこと──わたしたちのアクション会議」を実施しました。その様子を、レポートでお届けします!

2025年7月20日。参院選を終えて今何を思い、考えるのか?

今回の参院選で目立った社会の分断を煽る言説。
個人の尊厳や、安心して暮らす権利が脅かされる場面が増えた選挙戦だったように思います。
また、選挙のたびに話題となるのが、若年層を中心とした投票率の低さです。
SNSでは、「一票で何が変わるのか」「自分の声が届く気がしない」といった声も散見されます。
 
こうした現実を前に、自分の声や立場が小さく感じられたり、何もできないように思えてしまうことは、ごく自然なことかもしれません。しかし、政治は一部の人のためのものではなく、私たち一人ひとりの声によって形づくられていくものです。
2025年8月1日に開催したkokonomeイベントでは、一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事の能條桃子さんをお迎えし、選挙が終わった今だからこそ、私たちは何を感じ、これからどのようなアクションができるのか参加者の皆さんと考えました。

「声をあげることは、決して簡単ではない」

その前提に立ちながらも、意見をもつこと、行動すること、
自分の意思を表明することの意味を見つめ直しました。

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一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事
FIFTYS PROJECT代表
能條桃子(のうじょう ももこ)さん

1998年生まれ。2019年、若者の投票率が80%を超えるデンマークに留学し、若い世代の政治参加を促進するNO YOUTH NO JAPANを設立。Instagramで選挙や政治、社会の発信活動(現在フォロワー約11万人)をはじめ、若者が声を届けその声が響く社会を目指して、アドボカシー活動、自治体・企業・シンクタンクとの協働などを展開中。2022年、政治分野のジェンダーギャップ解消を目指し20代・30代の地方選挙への立候補を呼びかけ一緒に支援するムーブメントFIFTYS PROJECTを行う一般社団法人NewSceneを設立。慶應義塾大学院経済学研究科修士卒。TIME誌の次世代の100人 #TIME100NEXT 2022選出。
 

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まずはじめに、今回の選挙戦を能條さんはどのように捉えているのか。ジェンダー平等、そして今回の選挙で台頭した極右政党の存在についてを中心にお話いただきました。そのうえで、今後、政治を少しでも良くしていくために、私たちに何ができるのか。二つの視点をご共有いただきました。

1. アジェンダセッティングの機能に注目

能條さん:国会では、選挙で選ばれた議員が委員会に所属し、法律についての詳しい議論を重ねていきます。いわば委員会は、選挙で示された民意を現実の政策に落とし込む場です。だからこそ、今回の選挙で政党のパワーバランスが大きく変わった今、これから各委員会で何が話し合われるのか注視していくことが重要だと思います。

仮に、委員会に所属する議員の数が少なくても、質問を通じて「この法律をこう変えた方がよい」と主張することができます。その様子はテレビで中継されたり、ニュースで取り上げられたりして、社会の関心を集めていきます。このような「アジェンダセッティング*」の機能がどのように働くのかを追っていくことが大切です。そして、その過程で事実に基づかない主張をする議員が現れたなら、市民が監視の役割を果たすことが欠かせません。選挙のときだけでなく、その間に展開される政治の動きを見守りつづけることが求められています。

*アジェンダセッティング:マスメディアや政治家が取り上げる議題(アジェンダ)の量や頻度によって、社会で“今、重要とされるテーマ”を形づくっていくプロセス

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2. “NO”ではなく、“YES”の社会運動を作っていく

能條さん:自分と異なる政党を支持している人を否定したり批判しても、状況は変わらないと感じています。差別に反対することや、瞬発的に「これは良くない」と言えることはもちろん大切です。ただ、これまで「NO」を伝えても届かなかった人には、「NO」を繰り返しても賛同は得られません。むしろ、私たちが望む「YES」の選択肢を提示し、共感を広げていくことが重要です。

自分と相反する意見をもつ人や、異なる政党に投票している人のなかにも、自分の生活の苦しさを抱えながら希望をもって投票している人が多くいるはずです。そうした人たちに、こちらの道の方がいいかもと思ってもらえるように、私たちが考える「生きやすい社会」のイメージや、自分は何を伝えたいのかを考え、様々な場で発信していくことからはじめていけたらいいなと思います。

つながりを紡いでいく道のりとは?明日からはじめられるアクションを考える

イベント中盤からは、参加者の皆さんがグループに分かれ、ディスカッションを実施しました。

最初のテーマは「今回の選挙でワクワクしたこと、モヤモヤしたこと」。選挙戦を振り返りながら、参加者同士で感じたことをシェアしました。

 
ワクワクしたこと
・以前よりも選挙について話し合い、情報をシェアする人が増えたこと

・差別にNOを訴える人々のプロテスト活動を見て、勇気をもらえたこと

・選挙期間中に街に多くの人が集まり、関心の高まりを感じられたこと
 
 
モヤモヤしたこと
・政策の中身よりもキャッチーな言葉が注目を集めてしまうこと

・議論すべきテーマがたくさんあるのに、「外国人問題」にばかり焦点が当てられたこと

・SNSでの過激な発言や、信頼性に欠ける報道が目立ったこと

共有した内容を踏まえ、次に「わたしが今、できそうなこと」をテーマに、個人でできること、他者と協力してできること、職場や学校・地域でできること、そしてその他のアイディアに分類しながら、参加者の皆さんに案を出していただきました。

ここからは、その一部をご紹介します。

参加者Aさん ー意見が違うとちょっとびびってしまうというか、伝えたいことはあるのに、瞬間的に言えなくてモゴモゴしてしまうことがある。だから、事前に自分が伝えたいことを整理して、パッケージとして用意しておけたらいいんじゃないかなと思う。

参加者Bさん ー私はもうすぐ実家に帰るので、両親と「どこの政党に入れたの?」って話をしてみたいなと思っている。これまでちょっと怖くてできなかったけど、グループで今回の選挙で家族としっかり話せたという方がいて、私も相手がなぜその選択をしたのか、どこに共感したのかを冷静に話し合えたらいいなと思う。
あと、映画など芸術を通じて、こういう考えの人もいるんだと理解し、共感を深めるきっかけにもなると思い、いろんな映画をグループで紹介し合った。

参加者Cさん ー私たちの間で出た意見として多かったのは、「とにかく話題にしよう」ということ。SNSで応援したり、ファクトチェックをシェアしたり、身近な場でもできることはあると思う。そのなかで、相手がびっくりするような発言をしたときも、いきなり反論するより、なぜそう思ったのかを聞く。そうして、合意できるポイントを見つけていくことが、分断を生まないためにも大事だなと思う。結局、何をするべきか答えはすぐには出ないけど、絶望せずつづけること、諦めずにできることをやりつづけたい。

参加者Dさん ー相手との関係を壊さずに話したいから、つい話すのを諦めてしまうこともある。だから、今回のイベントのグランドルールなど話せるための工夫や伝え方を学んだり、情報を取り入れたりしながら、自分自身も変わっていくことが大事だと思う。

「SNSでの発信」「家族との対話」「映画など文化を通じた理解」などアプローチはさまざまですが、共通して見えたのは、意見の違いによる分断ではなく、関係をつなぎながら自分の思いを少しずつ伝えようとする工夫でした。

最後に、皆さんから出たアイディアも踏まえて、能條さんからコメントをいただきました。
そこから見えてきたのは、日常の中で政治や社会と前向きに関わっていくためのヒントです。
能條さんのコメントとあわせて、その5つのTIPsをご紹介します。

#1. 戦略的に楽観的に

能條さん:現状の社会に目を向けると、楽観できる部分は、探そうとしなければなかなか出会えないのかもしれません。同性婚や選択的夫婦別姓の議論が思うように進まないことや、これからの国会の動きに対して、絶望してしまうこともあると思います。でも、反対の意見をもつ人たちが一番嫌がることは、私たちが諦めずに声を上げつづけることなんだと思います。だからこそ、黙らずに、そして楽観的につづけていくことが大切だと感じています。

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#2. コンフォートゾーンから出る

能條さん:自分と似た考えの人と一緒にいることも大事ですが、一方で、自分の視野が偏ってしまう可能性もあります。だからこそ、時にはコンフォートゾーンを出て、異なる意見をもつ人と話してみることも大切だと思います。そのなかで「相手をどう説得するか」と考えてしまうこともあるかもしれません。ですが、人の数だけ異なる背景や見てきた景色、正義があります。価値観の基準は人によって違うもの。だからこそ、自分が話したからといって相手がすぐに変わるとは限らない、という前提をもつことが大事です。相手の心の扉が開くタイミングを選ぶことはできません。けれど、対話を重ねるうちにふと生まれる隙間から、変化が芽生えることもあるのだと思います。

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#3. 人格と意見は切り離して判断する

能條さん:異なる意見をもつ人に対して、意見とその人自身を結びつけて話してしまうと、思わぬところで相手を傷つけてしまうことがあります。相手を丸ごと変えようとしなくても、「私はこう思うよ」と自分の考えを伝えられたらそれで十分。そうすると、「ここは同じだね」と共感できる部分が見つかって、会話も自然に広がっていくんだなぁ、と感じています。

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#4. 社会を背負いすぎない

能條さん:「自分対社会」という構図で考えてしまうと、「どうして自分はこんなに活動しているのに、社会は変わらないのだろう」としんどくなることがあるかもしれません。だけど、自分が活動を始めた理由を振り返ってみると、知識を得ることで「あのときのことは自分のせいじゃなかった」と気づけたり、過去の経験を消化できたり、「自分だけじゃなかったんだ」と安心できたりしたことが、出発点にあったはずです。もともとは、自分が少しでも生きやすくなるために始めたものなのだと思います。
「どうしてこんなに頑張っているのに」と感じるときは、頑張りすぎているサインかも。そんなときこそ、自分のスペースを大切にしながら向き合うことが必要だと感じています。

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#5. “私たち”なら変えられる

能條さん:「私」だけじゃ変えられないけど、「私たち」になったら変えられるということはたくさんあると思います。世界を自分ひとりで変えることはそもそも不可能で、そのなかで「自分しかいない」と思い込んでしまうと、かえってつらくなることもあるでしょう。
だからこそ、イベントに参加したり、団体の活動に関わったりして、「私はその一部なんだ」と思える場所に身を置くことが大切です。そういう場があるからこそ、孤独や絶望を感じるときでも、「みんなでやっていこう」と前向きになれるのではないでしょうか。

 

「違い」が当たり前の社会の中で、ともに生きる

個々の背景や生き方が多様化し、「違い」が当たり前となった今の社会。
今回のイベントは、政治に限らず、日常の中でその「違い」にどう向き合うかのヒントに溢れていました。
異なる意見や立場に出会ったとき、相手の言葉に傷ついたり、自分自身が否定されたように感じることもあるかもしれません。そんななかで、冷静に向き合うのは決して簡単ではありません。しかし、相手の人格を否定せず、耳を傾けながら自分の思いを伝えていく──そんな小さな試みを積み重ねることが、「違い」を分断の理由にするのではなく、つながりを紡いでいく力になるのではないでしょうか。
決してすぐには変えられない社会だからこそ、時間をかけてともに進めるこの営みが、次の、あるいはその先の選挙や政治のあり方に変化をもたらすことにつながっていくはずです。
今回のイベントがその歩みを進めていくために、少しでも前向きな未来について考える時間となっていれば幸いです。
 
kokonomeでは今後も、Creative Studio kokoに集う皆さんの「知りたい」「考えてみたい」「話してみたい」テーマに向き合い、対話を通して学び合いながら、ともに歩んでいくための場をつくっていきます。

イベント関連コンテンツはこちらから
kokonome Instagramでは、能條さん、参加いただいた皆さんにご回答いただいたイベント後のインタビューコンテンツを公開しています👀
気になる方はこちらからチェックしてみてください!
 

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「kokonome(ここのめ)」は、Creative Studio kokoが運営するメディアです。私たちが大切にしているのは「つくる」「届ける」ことに関わる一人ひとりが、自分の思考を深め、安心して議論ができる場をつくること。異なる考えや視点、感情を交わしながら、“いま、ここ”から 私たちがつくりたい未来への道すじを探っていきます。

テーマは「#私たちが“今”、話してみたいこと」。クリエイティブの現場で起きていること、企画や制作の背景、働く環境、そして社会との関わりのなかで模索する表現のあり方について、私たち自身の言葉で話し、考える機会をつくります。ゲストを招いたイベントや記事の発信を通じて、これからの表現や働き方を、私たち自身の視点で選び取るための一歩を届けていきます。

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Text : Akane Takayama
Edit:Ai Tomita